コラム

#6 「アトム、ガンダム、ドラえもん」
菊池尚人(慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 特任教授)

2022年1月28日

 昨年夏に内閣官房がまとめた資料では、世界のデータ戦略はアメリカ、EU、中国、インド、その他に分類されている。私見を加えれば、アメリカはGAFAなど巨大IT企業が中心。EUはプライバシー重視のルール形成。中国は国家によるトップダウン。(S.ハイマンによれば、デジタルレーニン主義。)インドはボトムアップ型に分類される。

 経済では、小さな政府と大きな政府に着目して、アメリカ型とヨーロッパ大陸型に資本主義は分類され、20世紀後半には日本型資本主義という単語も随分と耳にした。中国は未だ一般的な資本主義とは異なるモデルだ。政治でも一党独裁のほかに、二大政党による政権交代可能な民主主義と、政権交代がほとんど起こらない民主主義など、複数に類型化される。

 歴史人口学者・家族人類学者であるエマニュエル・トッドによれば、大雑把に言って、宗教も政治も経済も家族制度が決定する。着目するのは、権威主義的な親子関係、兄弟姉妹間の平等、いとこ婚の有無の三つだ。

 英米の絶対核家族

 フランス等の平等主義核家族

 ドイツや日本の直系家族

 ロシアや中国の外婚制共同体家族

 イスラムの内婚制共同体家族

などに分類される。政治経済の違いを、割と上手に説明できていると思う。なお、絶対核家族は最古の家族制度で、これが残存していたイギリスで産業革命は始まったとトッドは分析する。

 インターネットは一様に世界へ広がったが、内閣官房の認識が正しければ、世界でデータ戦略は異なっている。であれば、データを活用するAIの戦略や受容にも、国や社会により、差異は生じるのだろうか。

 ロボットの受容は国や社会によって、AIよりも違いが出そうだ。アトムは、交通事故で亡くした息子に似せて、天馬博士が創った。ドラえもんは、のび太の兄弟か親友の存在。海賊コブラのアーマロイド・レディは昔の恋人。ガンダムは兵器。

 欲しいロボットは、子ども、兄弟姉妹、親友、恋人、兵器のどれか。はたまた、全部か。人とロボットとの関係は、国や社会によって、どれくらい異なるのだろうか。政治経済のように、家族制度が影響するとの仮説を提示したい。

 人口減少に転じた高齢化社会の方が、AIやロボットを早く受容するのか。それとも人口が増加している、若年人口が多い社会の方が、AIやロボットを早く受容するのか。若くて流動性のある国や社会の方がイノベーションは活発だとすれば、後者のような気がする。

 デジタル政策フォーラムの場で、このような正解が見つからない議論もしてみたい。

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