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デジタル政策フォーラムアジェンダ(2022年度版)

 データの収集・蓄積・解析・利用が重要な役割を果たすデータ駆動社会において、データが持つ特性(限界費用ゼロ、非競合財、ネットワーク効果など)はデータ所有者の市場支配力、すなわち“データという富の集中”を加速的に高める。これが旧西側諸国では巨大プラットフォーマーによる「監視資本主義」を生み、またロシア、中国等では政府による国民監視の徹底が「権威国家主義」をもたらし、利便性・効率性とプライバシーの相剋が大きな問題となっている。

他方、これに対抗する2つの動きが見られる。

一つは欧州の動き。巨大プラットフォーマーに対する競争法の見直し、デジタルサービス規制の導入、個人情報保護の強化、認証基盤連携の推進、さらにデータ法の検討など、“データという富の集中”を最小限に食い止める新たな市場モデルの検討(「第三の道」の模索)が進んでいる。

もう一つは新しい事業モデルの模索。分散台帳技術を活用した分散型事業モデル(Web3)が注目される中、NFT、DAO、DeFiの登場など、“データという富の集中”に対抗し、個人に主導権を与える新しい動きがみられる。

こうした集中から分散への大きな流れをもたらす2つの動きを中心に、DPFJはデータ駆動社会のもたらす社会経済的インパクトについて更に検討を深めつつ、一歩進んで、“日本の目指すデジタル国家像”を明らかにすることを目指す。

その際、ウクライナ情勢を含む地政学的リスクの変化、世界的な物資不足(石油、半導体、食料など)に起因する世界経済の不透明感の高まり、環境負荷がもたらす事案の急増など、世界が抱える重要課題が及ぼす影響に十分目を配りながら、必要に応じて緊急提言をまとめるなど、機動的に検討を行う。

なお、議論の成果についてはG7デジタル大臣会合、IGF(Internet Governance Forum)など、2023年に日本でインターネット関連の重要会合が開催されることを踏まえ、産学官の有識者で構成されるDPFJのユニークな特性を活かしつつ、こうした機会に意見表明を行うことも視野に入れながら検討を進める。

データ駆動社会の具体像

 「監視資本主義」モデルや「権威国家主義」モデルとは異なる欧州のアプローチに準拠した議論を単に行うのではなく、国や文化圏の多様性に重きを置くとともに、デジタル社会のルールメイキングの在り方から根本的に議論する。Trusted Webなど関連する事項についても、問われるべきは今後のデジタル社会における「信用」・「管理」と「自由」・「多様性」のバランスであり、デジタル社会における集中と分散のベストミックスを広く検討する。 国際的な市場環境に照らせば、Web3は新しいゲームである。Web3における国家関与の強化や新たなプラットフォーマーによる独占の登場など、Web2.0における弊害が形を変えて出現する懸念もある。このような中、Web3に関する国際競争の視点や国内規制の在り方に加え、望ましい国際規律やデジタル社会像をあわせて議論する。

また、Web3においても文化の独自性や多様性を確保することは極めて重要であることを踏まえ、文化と密接不可分のコンテンツ(コンテンツレイヤー)における日本の制作者、ユーザーの貢献を振興することも求められる。国際社会における相互の「受容」を拡大し、価値観と制度が緩やかに調和するデータ駆動社会の具体像を議論する。

データ駆動社会の基本規律

 デジタルを主題としつつ、国家と市民社会との関係について、その再構築を検討する。拡大しているデータ経済のエコシステムと、日本では十分に根付いているとは言い難い市民社会のガバナンスをどのように結びつけるかが今後のデジタル社会の要諦になる。小さな政府に基づくアメリカ型デジタル社会、歴史に根ざした市民社会に基づくEU型デジタル社会、そして権威国家主義による中露型デジタル社会との対比を通じて、日本型デジタル社会の基本規律を考察する。 また、ロシアによるウクライナ侵攻以降、グレーゾーン事態(武力行使が行われる前の段階で、自国の主張・要求を強要しようとする試み。平常時と非常時の境目が曖昧で、武力行使前の段階でのサイバー攻撃などが含まれる)を想定した非常時の諸権利に関し、様々な議論が出ている。こうしたグレーゾーン事態における政府の対応は国民の権利の十分な保護を抜きに語ることはできず、多様な主体による多角的な検討を進める。加えて、政府等公的主体のインターネットへの関与について、「自律・分散・協調」というインターネットの基本精神を踏まえつつ、そのあり方(インターネットガバナンス)について検討する。

上記の議論については、国際関係論、安全保障、外交政策などの専門家を迎えて検討を進めるとともに、「市民」・「企業等」・「政府」が緊密に連携する日本型のデジタルトライアングルを念頭に、法執行の確保を含め、地球規模での俯瞰した議論を進める。

データ駆動社会における競争枠組み

 産業構造全体のデジタル化によって、リアルのフィジカル空間と、デジタルのサイバー空間との双方のデータや情報を融合・連携して多様なサービスを展開するCyber Physical System(CPS)が基本になると言われている。

CPSが実現した社会における現在との大きな変化は、取得できるデータの大規模・広範囲化、AI等の判断による責任主体の不明確化、巨大プラットフォーマーによる支配力の集中などが挙げられ、これらの変化から事前規制ではなくアジャイルガバナンス、ゴールベースの法規制の有用性が見込まれている。

ただし、その場合であっても、個別のケースにおいて利益侵害やエンフォースメントの弱体化が想定されるため、それを踏まえたアジャイルガバナンス、ゴールベースの法規制のあり方について議論を行う。

また、競争政策については、近年の動きとして、公正取引委員会「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(2019年12月公表)の策定や「デジタル・プラットフォーム事業者取引透明化法」(2021年2月施行)の制定が挙げられるが、これらはBtoBを対象とするものであり、対消費者取引についての新たな理論枠組みが必要であるという観点で検討する。

巨大プラットフォーマーが自由な競争を阻害しないための特別な責任やグリーントランスフォーメーション(GX)を推進する上で、競合する企業間等での協力やデータの共有が求められる場合の競争政策や関連法がどうあるべきかについてもテーマとして扱う。

データ駆動社会における融合型コンテンツ流通

 これからは、DAOやWeb3、メタバースやファン・コミュニティが世界規模で拡大することが予想されるが、「メジャーとインディ」、「プロとアマチュア」、「プラットフォームとコンテンツ」という階層構造あるいは垂直的関係そのものは、当面は変わらずに存在し続けるだろう。

ただし、それらの役割や関係性は従前とは大きく変化することが予想されるため、「相互の位相関係」や「クリエータ個々人のキャリアパス」などを俯瞰的に見通さないと、メディア&コンテンツ領域は長期的には個々人が人生や生活をかけるに値しない作業領域となりかねない。

これらの認識に基づき、(1)柔軟なコンテンツ制作、流通の実現、(2)伝送路の制約を受けないメディア多様性の確保、(3)グローバルな課題への対応について、制作、流通、利用、消費の全てから、多様なステークホルダーとともに総合的な議論を進める。

データ駆動社会を加速させるルール整備

 現代のデジタル社会を象徴するデータ・プラットフォーム・AIが、既存のルールのあり方の根本的な再編成を迫る中、国際的なルール形成への影響力を強めるEUでは、それら3要素を軸とした形での大規模な立法の動きを進めている。

データに関しては、データの保護に焦点を当てた個人データ保護法制や知的財産法制とは別に、「データ法」案と「データガバナンス法」を基盤とした、データ活用法制と呼ぶべき新たな法カテゴリを形成し始めている。 プラットフォームに関しては、偽情報対策を含む包括的なプラットフォーム規制である「デジタルサービス法」、それと対をなす競争法制である「デジタル市場法」を成立させ、2023年からの本格的な運用開始が見込まれている。

AIに関しては、AI関連製品の安全確保を目的とした「AI規則」案と「機械規則」案に加え、AIの責任ルールを定めた「AI責任指令」案が2022年中に提案される予定である。

本アジェンダでは、これらEUの立法・運用状況、並びに関連する米英や途上国等の動向を参照しながら、データ駆動社会に求められる我が国のルールのあり方について議論を行う。

また、データ駆動社会のルールは、国家単独での構築を行うことが困難であり、それぞれにおける共同規制手法をはじめとした官民協業型ルール形成、そして各種経済連携協定やG7、OECDなどの枠組で構築される国際ルール形成の2点を重視した検討を行う。

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