#15 デジタル・ネットワーク、DXと著作権政策
吉田光成(文化庁著作権課長)
2022年5月20日
2021年7月、文部科学大臣から文化審議会に対して「デジタルトランスフォーメーション(DX)時代に対応した著作権制度・政策の在り方について」諮問を行いました。
著作権法は、1970年の制定以来、著作物等の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、我が国の文化の発展に寄与する制度として発展してまいりました。制定から50余年経過し、コンテンツの周辺環境は大きく変化、その中心的キーワードは言うまでもなく「デジタル化・ネットワーク化」です。さらに、今般の新型コロナウィルス感染症の影響などにより、経済活動を中心に人々の生活がデジタル技術でより豊かに変革していくデジタルトランスフォーメーション(DX)が推進され、文化芸術活動におけるコンテンツの創作・流通・利用のそれぞれの場面にも大きな影響を与えています。
今回の諮問のタイトルにおいて「DX時代に対応」としたのは、これまでの「デジタル化・ネットワーク化」の先にあるビジネスの変化やテクノロジーの流れに如何にして対応していくべきなのかを大きなテーマとして考えていきたいという点を表しているといえます。実際に、最近では、このフォーラムの議論でもたびたび登場しているWeb3.0やNFT、メタバースといった言葉が、コンテンツの周辺でも注目を集めているのはご承知のとおりです。
もう一点、諮問では「著作権制度・政策の在り方」として、制度と政策を並べて検討することとしました。これまでの著作権政策は、「制度を如何に変えれば、権利が守られるのか、あるいは利用が円滑になるのか」という点に重点を置いて進められてきました。著作権が、私人の持つ権利を定めている法律である点からすれば、この発想は今後も原点であることには変わりがないでしょう。しかし、社会構造が複雑化、ステークホルダーも多様化して、「創作者(権利者)」と「利用者」という2つの基軸も大きく変わってきています。それに伴い、著作権に関する利害調整も変化し、制度を変えることだけで解決策を見いだしていくことは難しくなっているといえます。現に、海外の巨大プラットフォームとの関係、国境を越えた海賊版対策、コンテンツの海外展開などの課題を見れば、制度改革にとどまらない政策が必要であることはいうまでもありません。
また、著作権は、文化の枠にとどまらず、我が国の経済や産業と切り離せないものとなっていることからも、制度の変更がもたらす効用を最大化し、負の影響を最小化する政策の果たす役割は、より大きくなっていると考えます。
このような問題意識や背景の下、現在、優先している取組は、簡素で一元的な権利処理方策と対価還元についてです。過去のコンテンツやデジタルで無数に創作されるコンテンツは、著作権者等の探索という権利処理コストが高く、必ずしも円滑な利用に結びついていないとの指摘があります。この解決方策として、分野を横断する一元的な窓口を活用した新しい権利処理の仕組みを創設しようとするものです。他人が創作したコンテンツを使いたい、あるいはそのコンテンツを使って新たな創作をしたいと考える人が相談できる窓口を作り、権利情報データベース等を活用して著作権者等の探索を行います。そして、権利を持つ者が明確な場合は、著作権者や権利を預かる事業者を紹介する取次や案内を行い、著作権者等が不明あるいは明確な意思表示がない場合、連絡を試みても返答がない場合などは、新しい権利処理の仕組みによって一定の条件の下で利用を可能とすることなどを検討しています。ここでは、著作権制度に新しい権利処理の仕組みを創設するという大きな制度的課題を解決していく必要があるだけでなく、窓口の創設やデータベースの構築などの政策的アプローチも同時に行っていく考えです。
デジタル政策フォーラム(DPFJ)では、産学官から多様な立場の方が参加されており、設定されたアジェンダには、知財・コンテンツ政策が含まれています。ここに集まる様々な情報、知見から、これからの著作権政策にも多くの示唆をいただけるものと期待しています。
(以上)