#5 コンテンツとメディアの新融合
中村伊知哉(iU学長)
2022年1月21日
データ駆動社会のデジタル政策を考える。このためデジタル政策フォーラムが発足した。ここでアジェンダ4は知財・コンテンツ政策がテーマとなっている。異色か? いや知財・コンテンツもデジタルメディアを通じデータにどっぷり駆動させられている。
コンテンツ政策とメディア政策は別個に扱われてきたが、データという網で一体となるべきだ。
コンテンツ政策は90年代に始まり、文化庁、経産省、総務省がバラバラに対応していたが、2003年に知財本部が設置されて横串が刺された。
2010年代にはデジタルへの転換が主要課題となった。海外に比べ対応が遅れたが、ここ数年で業界のシフトが鮮明となり、成果が現れている。
だが気がつけばマンガは海賊版、アニメはネットフリックスなど海外の配信、ゲームはグーグルなどによるクラウド化、音楽はスポティファイなどプラットフォームへの対応という具合に、海外のITメディアが脅威となっている。
そしてマンガは海賊版対策、ゲームはeスポーツなど新領域の開拓、音楽は著作権処理ルールなど、対策はジャンルによって違いがある。政策も個別で小さく、総合政策は見当たらない。ジャンル横断で他分野と連携する対策が重要だ。クールジャパン戦略で議論されているように、食、ファッション、観光など他産業との連携策も重要となる。つまり、「融合」が主要課題だ。
他方、メディア政策は80年代、通産省のコンピュータ政策と郵政省の通信政策の激突後デジタル時代を迎え、90年代にインターネットの整備、2000年代には地デジの整備が課題となった。小泉政権下で進められた通信・放送法体系の刷新と規制緩和を経て、「融合」が重要テーマなった。さきごろ他国に10年以上遅れてようやくテレビの同時配信が実現し、著作権法も改正に至った。一段落に見える。
しかしこれも気がつけばメディア市場はGAFAに加え、ネットフリックスやディズニーが世界を押さえにかかる。通信・放送の融合は終わっていた。全IP全クラウドにテーマは移り、さらにデータとAIがビジネスの主役となっている。広告の大半がデータとAIによるターゲティング広告となり、ゲームはクラウドでゲーム機が不要となり、放送も5Gで送れるようになる。これらを総合的にとらえた戦略は見受けない。
コンテンツもメディアも海外のプレイヤーがボーダレスにデータ事業を展開する。中国資本も本格的に動きそうだ。日本のコンテンツにそれら資本も投下されている。日本のプレイヤーはどう向き合うのか。のるのか、そるのか。放送外資規制を巡る議論でも戦略的な話は乏しい。
かつてコンテンツとメディア、ソフトとハードは一体だった。機器メーカが音楽レコードを作り、ゲーム機会社がプラットフォーマーとしてコンテンツを制作していた。が、最近は録音録画補償金や海賊版対策でもハードとソフトの業界が対立する場面が多い。両者の融合もまた課題になっている。
コロナはライブ・エンタメをストップさせ、業界が大打撃を受けている一方、映像配信やeスポーツなどが巣ごもり特需で急成長している。コロナ後には業界構造が変わることは必至だ。戦略論をたたかわせる好機ではなかろうか。
ジャンル別の検討、著作権など個別政策だけでは、もはや最適解が得られない。コンテンツ+メディアを横断する展望がほしい。知財政策とIT政策の融合、文化産業政策の立案が必要だろう。