データ駆動社会の実現に向けた7つの視点
2022年6月6日
デジタル政策フォーラム[1]
I データ駆動社会の基本像
“我が国は、21世紀を迎え、すべての国民が情報通信技術(IT)を積極的に活用し、かつその恩恵を最大限享受できる知識創発型社会の実現に向けて、既存の制度、慣行、権益にしばられず、早急に革命的かつ現実的な対応を行わなければならない。”
これは、2001年1月、IT本部(高度情報通信ネットワーク社会推進本部)で決定された「e-Japan戦略」の冒頭の一文である。このe-Japan戦略から約20年が経過した今、光ファイバー網を含むブロードバンド基盤の整備では世界最先端となる一方、行政・医療・教育分野をはじめ各領域でのデジタル化の遅れが目立つ。
その背景を2つの面から見る。まず、デジタル投資を行う企業経営層を見ると、日本のデジタル投資は主としてコスト削減を目的としており、新たな価値や収益機会を生み出すことに主眼が置かれてこなかった。また、デジタル投資として、高機能端末や高速回線など、手をつけやすい、見える領域にのみ手を付ける「手段の目的化(=digitization)」に終始し、デジタル化によって業務プロセスそのものを見直すという「BPR[2]の視点(=digitalization)」が欠けてきたという指摘もある。
もう一つの面、すなわちデジタル技術の提供事業者を見ると、急速な技術革新が進む中にあっても既存の権益(旧来のシステム)を守り、異なる機器・サービスの相互運用性を確保するオープン化に消極的で「ベンダーロックイン」を追い求める傾向が強かった。同時に、新しいデジタル技術は「技術的に可能(できるようになる)」という供給側の視点に力点が置かれ、現実社会が抱えている課題を(こなれた)デジタル技術でどう解決するか、また、その解決策が自立可能でスケーラビリティを有する(scalability=地域を超えた広がりを持つようになる)かどうかという視点が欠けていた。
目指すべき社会=データ駆動社会
日本が抱える課題は多岐にわたるが、最大の課題の一つが人口減少である。日本の人口は2100年の時点で約6千万人と推計される[3]。これは2004年12月のピーク時の約半分(約100年前の大正末期の人口とほぼ同じ)であり、このまま策を講じない場合、経済規模の大幅な縮小が財政赤字、社会保障費の拡大、(経済力に比例する)外交力の低下等、深刻な影響を将来もたらす可能性が大きい。
こうした中、21世紀型エコノミーの鍵を握るのがデータである。ビッグデータの収集・蓄積・解析を通じ、人工知能(AI)を活用しつつ、“課題発見”から“課題解決”、“過去分析”から“将来予測”、“部分最適”から“全体最適”へのシフトチェンジを実現する必要がある。
その際、(a)社会経済システムが持つ課題の特定→(b)IoT機器などを用いた課題解決策(ソリューション)の検討→(c)ソリューションの稼働状況の検証→(d)ソリューションの改善—–というサイクルを継続的に回すことが重要であり、こうした「リアル・サイバーの垣根を超えたデータ循環」という姿が目指すべきデータ駆動社会(Data Driven Society)の中核(基本像)をなす。
なお、ここ数年、我々は”COVID-19”と”ウクライナ侵攻”という継続中の2つの世界的な危機を経験している。この世界的危機の中でデジタル技術のもたらす功罪も、過去に類例をみないほど明らかになってきている。その教訓を活かし、社会に実装していくことは我々世代の責任だと言える。
こうした基本的な考え方を踏まえ、以下、データ駆動社会を目指す際に求められる7つの視点を整理する。
Ⅱ データ駆動社会:7つの視点
1 課題解決型社会
我々はデータ駆動社会の構築途上にある。経済社会の抱える様々な課題をビッグデータ解析とソリューション開発・運用によって解決していく。今後の急激な人口減少と厳しい財政制約の中で課題解決型社会を構築するには、データの量、質(粒度)、流通速度が決定的に重要になる。
このため、(1)データ連携基盤の整備、(2)データの自己コントロール権の確立、(3)政府デジタル化の加速化が極めて重要になる。
1-1)データ連携基盤の整備
これまでの情報化は行政、教育、医療など領域に閉じた情報化(データ化)の試みが行われてきた。その試みも既得権益の壁に阻まれた部分が大きい。しかし、データ駆動社会を想定した場合、こうした領域(“system”)の壁を越えたデータ連携(“system of systems”=仮想的な一つのシステムとして機能)が重要な役割を果たす。
こうしたデータ連携を実現するためには、データ様式の標準化によるデータセット間の相互運用性の確保、データ流通を実現するための取引市場の整備、API(Application Programming Interface)の共通化を通じた(第三者による)データ連携の実現、さらにデータ連携基盤間の相互運用性の確保などが重要になる。その際、「領域の壁の打破」を目指すのであれば、データ流通促進のための環境整備は個別の業法ではなく業態横断的なアプローチを採用することを旨とすべきである。加えて、データ連携によりIoT(Internet of Things)で収集した無機的なデータと人間の行動(ノウハウ)を結びつけることでノウハウという暗黙知を形式知に転換し、次世代が共有する仕組みづくりが求められる。
また、データ[4]連携の制度的な枠組みづくりを加速化する必要がある。例えば欧州委員会はデータ法の骨格[5]を公表しているが、我が国においても、個人情報保護法(=個人情報の保護と活用)、デジタル市場における競争枠組の確立(=デジタル市場における寡占防止・競争促進)などと併せて、データそのものの利活用の促進とデータ独占(寡占)の防止を実現するための制度的枠組み(データ競争法)の検討を急ぐべきである。
1-2)データの自己コントロール権の確立
プラットフォーマーによるデータ独占が健全な競争を損なう主たる原因であることを踏まえ、データ連携基盤の整備に際してはデータの自己コントロール権を制度・システムの設計段階から組み込む“バイ・デザイン(by design)”の仕組みの構築が必要になる。
自分を起点として自分に所属・生成した情報を自分の明確な意思の基に管理・流通が可能な仕組みとして、スマートフォンに格納された電子証明書などの官民連携による認証連携の仕組みの実現、データ保有者の真正性の証明、データ非改ざんの証明、データ送信の時刻記録(タイムスタンプ)や送達確認(eデリバリー)などを一連のセットとして運用可能なトラストサービスについて、欧州をはじめとする主要国と連携した制度の相互運用性の確保が求められる。
1-3)政府デジタル化の加速化
2021年9月にデジタル庁が発足し、政府のデジタル政策の司令塔としての活動を開始した。課題解決型社会の実現に向け公共部門のデジタル化は極めて重要であり、デジタル庁の取り組みに期待したい。政府のデジタル化の取り組みについては、当面、組織のガバナンス強化はもとより、オープン性の確保、便益の見える化、システム開放の3点が重要である。
まず、システム調達や政策決定のプロセスのオープン性(透明性)を継続的に維持することが求められる。特にデジタル庁が推進する政府情報システムのクラウド化など、国民生活に密接に関連する施策についてはステークホルダーが多く、丁寧な検討プロセスが求められる。デジタル技術を最大限活用した多種多様な議論の場、情報発信・意見交換の場がデジタル庁主体で作られることを望みたい。
次に、政府のデジタル化は国民のための利便性の向上を目指すものであることは論を待たない。しかし同時に、政府部内の関係機関にとってデジタル化がもたらす付加価値は何かということも明確でなければ前に進まない。このため、例えばデジタル化による削減費用の一部は新規の政策領域に用いられる仕組みなど、各府省に対するインセンティブ付与型の新しい予算システムも検討に値する。
さらに、ワンストップ行政の仕組みをオープン化することを検討すべきである。民間金融機関における情報システムのAPI開放のように、政府情報システムのAPIを開放することによって認証基盤、保有データ(公開ベース)、システム機能などを自由に組み合わせ、民間企業がアグリゲーターとなって競争的にワンストップ行政サービスを提供可能とする仕組みの構築が望まれる。こうした取り組みは行政システムのオープン性を阻んでいる隘路を民間との連携によって明らかにし、デジタル庁が主導的に課題解決に取り組むという面でも有益である。
2 分散共有型エコノミー
デジタル技術が登場し、インターネットが広く民間部門で利用されるようになると、従来のメディアだけでなく企業を含む多種多様な情報提供主体がオンラインで利用者に情報を届けることができるweb1.0が実現した。これに続き、これまで情報の利用者に止まっていた一般の人々も情報を発信し広く共有される、双方向の情報のやり取りが実現したweb2.0の世界が到来し、そしてWeb2.0の社会が進化していく過程で、情報提供者と情報利用者の間に介在する第三者としてプラットフォーマーが登場した。プラットフォーマーの存在は情報アクセスの効率性を飛躍的に向上させたという点が評価される一方、後述の通り、様々な問題点が指摘されるに至っている。
デジタル技術の世界では、例えばコンピューティング能力について、メインフレーム中心の(コンピューター資源の)集中の時代から、パソコンの普及による分散の時代、さらにクラウド化による集中の時代の再来、エッジコンピューティングの活用による部分的な分散など、集中と分散のミックスした形で時々のニーズに応えてきた。
プラットフォーマーが抱える問題を今後どう取り扱っていくのか。これを考える際には、集中の時代の象徴でもあるプラットフォーマーを今後どう取り扱っていくのか、そして集中に偏りすぎた時代を分散の方向に力点を少し移していくということも議論になり得る。
その意味で、目指すべき社会は分散共有型エコノミー(分散と集中のベストミックス)であり、ここでは、(1)プラットフォーム対策の推進及び(2)ブロックチェーン技術の活用(Web3への対応)の2点を重要な検討課題として取り上げる。
2-1)プラットフォーマー対策の推進
データが社会経済システムの中で中核的な役割を果たす時代にあって、プラットフォーマーは“二面市場[6]”、“ネットワーク効果[7]”、“限界費用ゼロ[8]”、“非競合財[9]”という特徴を活かして市場支配力を高め、他のレイヤーにも市場支配力を行使している。特に利用者から獲得する個人情報は対価として利用者が受け取る便益を大きく越え、プラットフォーマーに超過利潤をもたらすものとなっている。結果、富の集中が過小投資・過剰貯蓄を通じて経済の低迷をもたらす可能性があるとともに、労働分配率が低水準に据え置かれる。こうした問題を解決するには、競争法の運用見直し、データ流通の促進、新市場の創出が必要となる。
まず、競争法の運用見直しについては、現行の独禁法ではプラットフォーマーの市場支配力を認定する判断材料が不足しており、略奪的な料金設定など市場支配力の濫用を挙証することが著しく困難になってきている。そこで、欧州「デジタル市場法(DMA : Digital Markets Act)」などを参考にしつつ、一定の規模を超えるプラットフォーマーに規制を適用する「事前規制的な要素」が盛り込まれた新しい競争法へと見直しを図ることについて検討する必要がある[10]。一定の規模を計測するには、売上高、登録者数などの他、例えば、「月間アクティブユーザー数(MAU)」など、インターネット関連市場の実態を的確に反映した指数を採用することが考えられる。
また、プラットフォーマーのサービスはバンドル化されていることが多く、一定規模以上のMAUを獲得している事業部門は収益を独立して計上するなど、利用者データをどのように用いて収益性のあるサービス提供をしているのかという仕組み・プロセスを公開する仕組みの導入も検討に値する。その上で市場支配力が客観的に認められるプラットフォーマーの機能分離(例えば、異なるサービス間の個人データの相互利用の制限や、競争事業者に適切な対価を支払うことを条件に同等条件でのデータ利用を認めること)なども考えられる[11]。
次に、データ流通を促進する観点からは、プラットフォーマーが蓄積したデータ(個人データ及び法人データ)を自ら取り戻し、これを別の事業者に移転することを可能とするデータポータビリティの確保が考えられる。また、こうした業務プロセスを第三者に委任する情報銀行やデータ流通市場の整備もデータ流通の促進に大いに貢献する。特にデータ流通市場の整備は、データという無形資産(intangible asset)の経済的価値を明示的にする上でも有効である。
さらに新市場の創設を促すためには労働者のスキル向上、具体的にはデジタル人材の育成のための環境整備を図ることが急務だろう。また、ベンチャー企業支援のための施策も重要になる。その際、単に海外の事業モデルを日本に移植するような取り組みではなく、独自の技術開発や収益モデルの確立を目指す“異能”の取り組みを積極的に支援し、将来的にはグローバル展開できる企業の育成を支援していくことが必要である。また、こうした“異能”のコミュニティづくりも不可欠である。
2-2)ブロックチェーン技術の活用(Web3への対応)
近年、ブロックチェーン技術(分散台帳技術)を活用したサービス開発が急速に進んでいる。これまでビットコインに代表される暗号資産の普及がその代表例とされてきたが、今後はNFT(Non Fungible Token : 非代替性トークン)、分散型金融(DeFi)、分散型組織(DAO : Distributed Autonomous Organization)など様々な活用事例が登場してくると見込まれ、関連技術群や事業モデルが発展したWeb3への期待は大きいものの、現時点では未だ揺籃期にある。
確かに、供給者から利用者に片方向で情報提供が行われたweb1.0から双方向の情報提供が実現したweb2.0へと進んだものの、web2.0の供給者と利用者の間に介在し市場支配力を獲得するに至ったプラットフォーマーの存在は市場競争を歪めるものであり、その是正策は急を要するものとなった。
しかし、こうした対策と同時並行的に、次のサイバー空間の姿について議論をしていくことも重要だろう。Web3の世界が到来するかどうかはまだ定かではないものの、Web3が体現する分散共有型エコノミーの意義やあり様について議論をすることはインターネットのサービス層の将来像を考えるための良い契機をもたらしている。
Web3においては生産者と利用者の区別なく一つの緩やかなコミュニティがサービスごとに形成されることが想定されるが、他方、すべての社会経済活動がWeb3に集約されることは考えにくく、従来の中央集権的社会とWeb3のような分散共有型社会が共存する時代が長く続き、その上で分散共有型社会の比重が徐々に高まっていくのでないかと想定される。
したがってWeb3の潮流を的確にフォローするとともに、事業モデルの透明性・アカウンタビリティ(説明責任)の確保など必要最小限の努力目標を明確にするよう促すにとどめ、具体的なルールの適用はソフトロー的なアプローチに限定し、ハードロー的な法規制は行わないといった運用方針の明確化(政策の予見可能性の確保)を図るなど、Web3に関連するイノベーションをさらに加速化することが望ましい。他方、Web3の動向については定点観測的に動向分析を行うことも重要である。
3 融合型コンテンツ流通
コンテンツ市場は13兆円を越える規模[12]であり、その成長は大きな経済的波及効果をもたらす。加えて、コンテンツは国家イメージや文化理解の向上などの文化的波及効果もあり、その生産を社会的最適水準に高める市場規模拡大のための振興策が求められる一方、不適切表現など外部不経済を抑えつつ表現の水準・多元性を守るための政策も必要になるという観点から、これまでコンテンツ政策のあり方について議論が行われてきた。
しかし、コンテンツ市場の環境は激変している。コンテンツの制作・流通・消費が完全にデジタル化し、すべてがデータとして処理されるようになり、コンテンツはデータ駆動社会の重要なデジタル財の一つとしての役割を果たすようになった。特にweb2.0の時代からすべての人がコンテンツの制作者であり利用(消費)者である市場環境となり、さらにWeb3においてはNFTの活用(デジタル財への希少概念の付与)やメタバースなどの複合的サイバー空間での利用が拡大し、コンテンツのN次利用や新しい共有形態、転々流通などが現れてきている。加えて、DAOの活用など、コミュニティやメディアを取り巻く環境はさらに激しく変化していくと見込まれる。
こうした中、従来のコンテンツ政策は利用技術や伝送路の差異に依拠するものであり、その上で知財戦略とIT戦略は別個に議論されながら政策形成が行われてきた。しかし、上記のデジタル環境の激変を考えれば、改めて、デジタル政策という包括的な枠組みの中で融合型コンテンツ流通のあり方を検討する必要があるとともに、国境を越えたデジタルコンテンツの流通の比重が高まる中、コンテンツのグローバルな流通を最大化するための取り組みを進める必要がある。
このため、融合型コンテンツ流通を促進するためには、(1)柔軟なコンテンツ流通の実現、(2)伝送路の制約を受けないメディア多様性の確保、(3)グローバルな課題への対応の3点が重要である。
3-1)柔軟なコンテンツ流通環境の実現
過去において通信・放送の融合について議論が行われてきた。その中で放送メデイアとしての公共性の議論と伝送路整備の議論が時に混じり合い、混乱を招く場合もあった。押さえておくべき大原則は、地方を含め放送メディアの情報提供(コンテンツ制作)機能は社会的に重要であり、また大いに評価されるべきだということ、また、フェイクニュースの流布やSNSにおける誹謗中傷問題などが社会問題化する中、引き続き、社会の信頼を獲得するメディア(ファクトチェック機関としての役割を含む)の機能は極めて重要であるということにある。
EUでは、伝送路に依拠した考え方を採らず、ウェブキャスティングもリニアサービスとしての電波による放送と同様に、視聴覚メディアサービスとして規律される[13]とともに、オンデマンド方式であるノンリニアサービスも含め、人種や宗教などへの憎悪を煽動する内容を含まないことや、番組とCMを分離することなどが規律として課されている。
また、動画共有プラットフォームサービスについても上記の規律の対象となっており、今後、SNSなどのプラットフォームで共有されるUGC(User Generated Content)型のコンテンツについても、コンテンツ適正化などの規律[14]が課されることとなっている。
今後、日本においても通信と放送という二分法でなく、コンテンツやメディアの社会的影響を勘案した規律への移行を真剣に検討すべきである。
加えて、こうした放送メディアとしての役割を今後も果たしていくためにはコンテンツ流通基盤について、クラウドサービスの導入や設備共用など経営効率化が可能な部分は最大限推進していくことが求められる。
3-2)伝送路の制約を受けないメディア多様性の確保
光ファイバー網(5G/6Gを含む)によるブロードバンドサービスへのアクセスがユニバーサルサービスになれば、IPマルチキャストなどの大容量映像伝送サービスが地域的格差なく全国で利用可能となる。このため、重複投資を避けつつナショナルミニマムとしてのブロードバンド伝送路を確保するためには、放送の伝送路の一部について無線通信網による配信に委ねることを制度的に可能とすることが考えられる。
また、共同コンテンツ配信プラットフォームにおけるサブスクリプションモデル(有料)の導入、NFTの活用によるコンテンツの希少の担保と流通など、デジタル政策の射程として一歩前に出るコンテンツ政策を検討すべきである。
3-3)グローバルな課題への対応
国境を越えたデジタルコンテンツの流通が増加していく中、グローバルなプラットフォーム事業者とコンテンツ事業者との間の適正取引の確保や消費者保護のための対策がますます重要になってきている。また、海賊版対策についても一国に閉じた対策ではなく、国家間の連携やグローバルに展開する民間事業者間の調整などが重要となってくる。さらに、メタバースやNFTに関しては開発者の権利やアバターの保護など国内的・国際的に制度が未整備であるなど、整理を急ぐべき課題が多数存在している。
このため、デジタルコンテンツ流通の制度的あるいは慣行的な阻害要因を洗い出してルールの再定義を行うための「デジタル特区」的なアプローチを国際的な連携の下で推進することとし、保護と利活用(創造)のバランスを取る観点から、関係者による検討グループを立ち上げることも検討に値する。併せてグローバルに活躍できるコンテンツ人材の育成などに努めるべきである。
4 データ危機管理
デジタル技術が社会に浸透し、データがリアル・サイバーの垣根を超えて流通するデータ駆動社会において、データが改ざんされないようデータ危機管理を徹底的に行うことが重要となる。既に述べたように、デジタル技術の活用によって個別領域に閉じないデータ連携(system of systems)が進むと、データの改ざんの影響も領域内にとどまることなく、社会経済システム全体に及ぶことになる。しかも、データの持つ影響が大きくなることで社会経済システムに与えるインパクトも大きくなる。
そこで、データ危機管理を実現する観点から、(1)組織の枠を超えたリスク対策の推進及び(2)データセキュリティ対策の確立の2点を取り上げる。
4-1)組織の枠を越えたリスク対策の推進
サイバー空間における脅威の深刻化、アジア太平洋地域における地政学的リスクの高まりなどを踏まえると、デジタル政策の一環として、サイバー空間の包括的なリスク評価を行うための体制づくりが急務である。サイバー空間は官民あるいは国内外の境界が曖昧であるが故に、リスクの評価体制や官民のリスク対応に係る役割分担など整理を急ぐ必要がある。
特にサイバー空間における(従来以上に深刻度の高い)リスクシナリオを広範に想定し、各事案に対して官民の役割分担、情報共有・連携の仕組みなど多岐にわたる検討を行い、残存リスクを許容範囲内にとどめる冷静かつ客観的な判断を官民で事前に共有しておくことが重要である。特に昨今の地政学的リスクの高まりを意識しつつ、国の関与が疑われるサイバー攻撃が重要インフラ部門に対して集中的に行われた場合、その機能をいかに維持するか—重要サービスの断を防ぎ提供継続を確保するための任務保証(mission assurance)—という観点から、政府における精密な検討が期待される。
4-2)データセキュリティ対策の確立
データ駆動社会においてはデータセキュリティの重要性が格段に高まる。情報セキュリティの要素である機密性(confidentiality)、真正性(integrity)、可用性(availability)を確保するため、まず機密性の観点からは、例えば公的主体が保有する機密性の高いデータは国内法で担保される国内に蓄積することや、データのサプライチェーンのあり方について具体的な検討を進める必要がある。加えて、ソフトウェアのサプライチェーンリスクに対応するためにはSBOM(Software Bill of Materials)[15]を普及させるためのガイドライン策定などにも取り組む必要がある。
また、データの真正性の観点からはフェイクニュース対策が重要になる。今般のウクライナ侵攻においても大量のフェイクニュースの流布が大きな混乱を与えるとともに、ファクトチェック機関の努力がこうした事態の悪化を最小限に留めている面もある。平常時において、フェイクニュース対策として国家の関与が疑われるフェイクニュースを減らす試み(例えば、注意喚起や警告表示によるラベリング、リツイート禁止、表示抑制)が行われるが、非常事態においてこれと同様の仕組みを維持することで足りるのか、安全保障の一環として国が偽情報を分析する仕組みをどうするか等、検討すべき課題は多い[16]。
さらに、国の関与が疑われるサイバー攻撃によって甚大な被害が発生している場合のサイバー自衛権行使のあり方(許容されるアクティブディフェンスの範囲を含む)などの議論を急ぐ必要がある。
5 インターネットの自由
インターネットはもはや社会経済システムの基盤インフラであり、そうであるが故に、インターネットの管理運用体制のあり方(インターネットガバナンス)はインターネットの本質を左右する重要な議論である。インターネットは「自律・分散・協調」を基本精神としつつ、国の規制や統制の埒外にあって異質なネットワークやアプリケーションを相互運用することを可能とする「インターネットの自由(Internet Freedom)」を原則として発展してきた。ただし、インターネットは1991年の商用化(民間開放)に至るまで米国の研究開発プロジェクト(NSFNET)として開発・運用されてきたという経緯を踏まえつつ、インターネットの管理運用体制において政府の関与(government reach)をどこまで認めるかが重要な論点になる。今般のウクライナ侵攻は、こうした議論を深化させることを促す大きなトリガーになっている。
このように、インターネットの自由を巡る最も重要な議論は、(1)サイバー空間における国際ルールの適用、(2)自由な越境データ流通の加速化、(3)広義のインターネットガバナンス、加えて(4)国際的議論の促進に向けた日本の貢献である。
5-1)サイバー空間における国際ルールの適用
まず、サイバー空間において安全保障の観点から国(政府)の関与をどこまで許容するかという議論がある。こうしたサイバー空間における国際法の適用関係の是非については国際連合専門家会合(GGE : Group of Government Experts)にて議論されてきた。
この議論では従来の国際ルールはそのままサイバー空間に適用されるべきとする旧西側諸国と中国・ロシア等との間に溝がある。中国・ロシア等は現行のサイバー空間(インターネット)は米国主導のルールで運用されていると主張する。多くの途上国もこの陣営に与している[17]。
ウクライナ侵攻においても、武力攻撃とともに激しいサイバー攻撃が行われた事実に鑑みれば、サイバー空間における国際法の適用について自衛権行使のあり方を含め、より具体的な議論を進めていく必要がある。
5-2)自由な越境データ流通の加速化=国際デジタル協定
国境を越えたデータ流通のあり方については1980年代から議論が開始され、その後、WTOにおけるサービス取引自由化の議論に次第に包摂されていった。しかし、今日において、国家主権の及ばない域外からのサービス提供(及び個人情報等の取得)が行われるのが一般的になり、一部の国においてはデータの海外流出を防止するデータローカリゼーション(data localization)という動きが見られる。しかし、データローカリゼーションは国境のないサイバー空間に隔壁を設け、自由な経済活動を妨げるとともに、知識や情報の自由な流通を損なうことで「知る権利」を喪失させることも懸念される。
このため、データ流通のための透明性の確保、分野を超えたデータの相互運用性の確保、データの取り扱いに関するプライバシーやセキュリティの確保、トラストサービス制度(例えば、データの真正性・非改竄を担保するための仕組み)の実現など、各国の制度の共通化を目指すのではなく、差分の存在する各国の制度間のインターフェースの共通化を図り、データ越境流通のための仕組みの相互運用性を確保することを目指し、まずは有志国(like minded countries)による国際連携に向けた合意形成を図り、その内容を「国際デジタル協定」に盛り込む形で緩やかな連携(二国間または地域内の連携協定)を図っていくことが望ましい。
5-3)広義のインターネットガバナンスの実現
“サイバー空間における国際ルールの適用”や“自由なデータ越境の加速化”という課題はまさにインターネットのあり方をどういう方向性に導いていくかという“狭義のインターネットガバナンス論”であるが、平常時・非常時を含め世界各国におけるインターネットアクセスをどのように確保していくかという「広義のインタ―ネットガバナンス論」もまた極めて重要である。
インターネットのユニバーサルコネクティビティや途上国における人材育成などに向けた公的支援の強化などの議論がより具体化することが期待される。COVID-19によってデジタル技術の重要性が一層認識された今、インターネットを「持てる国(地域・人々)」と「持たざる国(地域・人々)」の格差をなくしていくことの重要性を再確認し、具体的な活動につなげていくことが求められる。
5-4)国際的議論の促進に向けた日本の貢献
インターネットガバナンスのあり方については、2005年11月に開催された世界情報社会サミット(WSIS : World Summit on Information Society)においてIGF(Internet Governance Forum)の設置が決定され、年1回のペースで会合を重ねてきた。2023年秋にはIGFが日本において開催される。IGF日本会合の開催に向け、産学官が連携しつつインターネットガバナンスに関する新たな検討アジェンダ[18]や今後の行動計画(現時点でのIGFの開催は2025年までを想定)を策定するなど、「分断されない世界をインターネットで実現する」ための行動を日本から発信していくことが求められよう。
6 ルールの透明性
伝統的な議論ではルールとは法規制(ハードロー)であった。法規制は経済的規制と社会的規制に大別され、経済システムの秩序を求める経済的規制については政府の関与度を引き下げる市場競争重視の考えの中で累次にわたる規制緩和が行われてきたが、他方、プラットフォーマーの台頭のように従来の経済的規制では対処が困難な事案も増加してきた。他方、社会的規制としては利用者保護などの観点から重要性が広く認識されるようになってきたが、他方、法規制といった強制力を有する手段で対応するのは適当ではないもの、あるいは技術革新が急速であるが故に規制の枠組みが実態に追いつかないものが散見されるようになってきた。
デジタル政策を検討していく上で、技術革新や市場構造変化が著しい中、官民連携による共同規制(co-regulation)、民間部門の自主規制(self-regulation)など、多様なルールのあり方が議論となっており、どのような場合にどのようなルール形式を適用するのが適当かコンセンサスを得る必要がある。また、ルールの達成目標としては、競争促進(利用者利便の向上を含む)、プライバシー確保、セキュリティ確保の3つの要素をどう均衡させるのかという課題に集約できる。この3つの要素が均衡しているときにサイバー空間にトラスト(信頼)が成立していると言える。
このようにデジタル政策におけるルールは多様だが、(1)ルールの実効性の確保及び(2)ルールの透明性・予見可能性の確保といった要件が満たされている必要がある。
6-1)ルールの実効性の確保
デジタル市場の中で、例えば通信ネットワークの態様をみると劇的な変化が生まれている。ネットワーク機能のハードとソフトの分離が進み、ソフトがクラウドサービスとして提供されてハードの機能を定義し、AIによるオーケストレーション(リソースの割り当て)が仮想的に行われるようになってきている。こうしたハード・ソフト分離は設備設置原則を基本とする現行の電気通信事業法では想定されていない。
このため、将来的には電気通信事業法というルールの実効性が失われる可能性があるため、その枠組みの大幅な見直しに向けて具体的な検討を進める必要がある。その際、NNI(Network/Network Interface)だけでなく、SNI(Service/Network Interface)のオープン化を実現するAPI経由での機能開放なども議論の射程に含み得る。
6-2)ルールの透明性・予見可能性の確保
ソフトローを重視したルール形成手段として重要度が増している自主規制や共同規制(以下「共同規制等」という)の場合、国が基本的な政策の方向性をまとめ、その遂行においては民間団体・事業者が主体的な役割を果たし、その結果を国が客観的に評価することを基本とするが、こうした共同規制等のプロセスの透明性・客観性を実現するために必要な事項の整理(ガイドライン化)が必要である。
その際、共同規制等を志向する積極的意義を明確にしなければならない。なぜなら、例えばハードローの制定に伴うコストを回避しようとする行政の怠慢や、規制対象事業者の働きかけなどにより本来より厳格な規制が必要であるにもかかわらず共同規制等の手段が用いられることは回避する必要があるためである。また、同様の取り組みを進めているEU[19]などとの整合性を確保することも必要である。
ルールの透明性を考える上で、ルールが適用される対象も多岐にわたる。例えばAIによる判断はAIという客観的・無機的な主体が下しているのではなく、あくまで学習データや開発者が設定したアルゴリズムによる。したがってアルゴリズムの透明性を確保するためのツールやガイドラインの開発なども推進していく必要がある。
7 ルールの国際的調和
伝統的な電気通信の世界では各国の電気通信網を相互接続して運用できる相互運用性の確保が重視され、最も古い国連機関であるITU(国際電気通信連合)を中心に標準化が進められてきた。しかし、急速な技術革新は公的な標準化(デジュール標準)だけでなく、競争条理で生まれるデファクト標準の重要性を高めることとなった。さらに相互運用性を確保しつつも「自立・分散・協調」の基本精神でインターネットが全世界に普及する中、標準化というルール形成は技術的な側面にとどまることなく、サイバー空間における政府の関与のあり方、表現の自由、誹謗中傷対策、フェイクニュースの防止など、広く社会経済そのものに関わる広い分野にルール形成の翼を広げることとなった。デジタル政策がすべての領域に関与しているものである以上、こうしたルール形成の広がりはある意味当然であるが、他方、各国の思惑や利益相反の部分が表面化する事案も増加してきた。
こうした中、国境の垣根が存在しないサイバー空間においては、(1)ルールの調和=相互運用性及び(2)ソフトローの国際的調和が求められる。
7-1)ルールの調和=相互運用性
ルールの実効性や透明性・予見可能性は国境のないサイバー空間において求められるものである以上、国際的な議論が必要である。その際、規制の共通化・同一化ではなく規制の違いを吸収する相互運用性の確保が重要である。
こうした相互運用性の確保は、国境のないサイバー空間において事業者が複数国においてサービス提供を行うことが自然となった今日、ハードローの世界で規制の域外適用が各国で行われると一つの国で複数の異なる法制度の域外適用を受けることになり、規制の適用を受ける国内事業者が対応できない状況になる。このため、引き続きハードローの国際的調和(相互運用性)を図るための政策対話(相互運用性に関する評価rツールの開発を含む)などを継続的に実施していくことが重要である。
7-2)ソフトローの国際的調和
ハードローのみならず、共同規制等のソフトローを重視したルール形成においても国際連携の取り組みが求められるが、これまでのところ、こうした国際連携の例は見られない。
例えばネットワーク中立性(network neutrality)をめぐる議論は日本においては共同規制のアプローチでルール化(ガイドライン化)が行われているが、他国においては多様なアプローチが採られている。このため、ネットワーク中立性をめぐる今日的な検討課題について国際的なフォーラムなどの場で議論を深めることが重要である。こうした議論はインターネットガバナンスを巡る議論にも直結するものである。
Ⅲ 次のステージ
本文書は2021年9月のDPFJ発足以降、ネット会議やオープンカンファレンス[20]などを通じて積み上げてきた議論の中で、デジタル政策の視点として重要な項目をスナップショットとして7つの視点に整理したものである。
DPFJは今後とも7つの視点を掘り下げた議論を進めていくが、同時に、中長期的な視点として以下の3つの項目についても同時並行的に議論が必要であると考えている。
第一に、中長期的なデジタル社会の姿(モデル)を具体的に描く必要がある。本文書で目指すべき社会像として挙げた「データ駆動社会」は当面目指すべき社会像として掲げたものであるが、デジタル政策は社会経済システムのすべてに関わるものであり、デジタル技術が社会経済の制御(場合によっては監視)に優れたものであるという事実は冷静に認識しつつも、民主主義や報道の自由・表現の自由を守る国として、どのようにデジタル技術を利用し、ルールを制定・運用していくのか、まさに国のあり方そのものとしてデジタル政策を考えていく必要がある。
第二に、そうした議論にすべてのステークホルダーが参加する必要がある。過去の政策議論は供給者(産業界)に偏っていたとの指摘があるが、最近では消費者保護など、利用者の立場に立った施策も重視されるようになってきた。しかし、Web3の世界で語られるように、供給者・利用者といった区分が今後なくなり、誰もがサイバー空間の参加者であるという時代感覚の中で、市民社会(civil society)というものを再定義し、中長期的なデジタル社会の姿を描いていく上での民主的プロセスのあり方について検討する必要がある。
第三に、ルール形成が果たす役割を広く認識し、多層的な議論が行われる環境づくりも求められる。特定の組織で決めるのではない課題解決型のルール形成、正当な利益を公正に分配可能な民主的かつ多様なルール形成、国内外のルールの調和など、デジタル社会におけるルール形成は国として戦略的に取り組むべき課題であることを認識すべきである。
本文書は、2022年6月開催のDPFJカンファレンス(国際公共経済学会と共催)における議論やSNSでの意見募集などを経て取りまとめた。本提言を踏まえつつ、DPFJとしてデジタル政策に係る議論(第二期)を継続していくとともに、2022年3月の緊急提言[21]のように、必要に応じて重要な事案などについて提言をまとめて対外的に発信していく。
【脚 注】
[1] 本提言はDPFJにおける議論を可能な限り集約したものであるが、DPFJメンバー(発起人及び賛同者)個人に属する意見やメンバーの所属する組織等の意見と異なる場合が存在する。
[2] BPR (Business Process Reengineering)、すなわち業務改革とは、単なるデジタル機器・サービスの導入にとどまることなく、デジタル技術の特性を活かし、業務プロセスそのものの抜本的な見直しを図ることを意味する。
[3] 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」(2017年7月)
[4] データには個人データとIoT機器等が生成する非個人データの双方が含まれている。
[5] 2022年2月、欧州委員会はデータ規則案(Data Act : Proposal for a regulation on harmonized rules on fair access to and use of data)を公表した。これは「欧州データ戦略(2020年2月)」に基づき作成したもので、より多くのデータを社会全体で活用することを目的としており、IoT機器が生成するデータを、機器のユーザー(自然人・法人を問わない)自身がアクセス可能とするとともに、その求めに応じて当該機器の製造事業者(データ所有者)以外の第三者に適正な対価で利用可能とする(ただし、デジタル市場法に定めるゲートキーパーを除く)ことなどを規定。今後、医療、自動車など、分野ごとのデータ法案も公表予定である。
[6] 二面市場とは、プラットフォーマーの市場が、プラットフォーマーとその基盤の上で活動する企業との間の取引市場と、プラットフォーマーと利用者(エンドユーザー)との間の取引市場の2つの市場で構成されており、この2つの市場の間で価値の転換や蓄積が行われていることを意味する。
[7] ネットワーク効果とは、プラットフォームの利用者の増加が利用者に関する個人情報の蓄積を進め、この蓄積個人情報を求める企業がプラットフォームに更に参加、ひいてはプラットフォームに参加する企業の数の多さが利用者からみて選択肢の増加を意味し、結果として利用者の数が更に増加するプロセス。
[8] デジタル財の場合、追加的に生産することによって追加的費用がかからないことから限界費用はゼロとなる。
[9] データは一人が消費(利用)しても価値が減ることがなく、他の人も同様の価値を享受可能であることから非競合財と呼ばれる。
[10] 競争法は一般に事後規制的な性格を有する。これは今後も有効であるが、デジタル市場など従来の規制適用が困難な場合には別のアプローチ(本提言にいう事前規制的要素の検討)も考えられる。なお、従来の業法との仕分け(例えば、電気通信事業法における非対称規制(市場支配的事業者に対する規制)は事前規制、独禁法は事後規制を旨とし、その重複的な適用(ただし観点が異なる)も事例に応じてあり得ると整理されてきている(公正取引委員会・総務省「電気通信事業分野における競争の促進に関する指針」)が、こうした点について、改めて業法と新たな競争法との間で再整理することが必要である。
[11] 市場支配力を排除する観点からは、市場支配力を有する部門(A)とその他の部門(B)との間に情報遮断などの組織運営上の隔壁を設け、Aを保有する事業者とAを利用する他の競争事業者との間の同等性の確保を図る機能分離と呼ばれる手法がある。この機能分離では不十分である場合には、AとBを組織的に切り離す構造分離と呼ばれる手法も存在する。
[12] (株)ヒューマンメディア「日本と世界のメディア×コンテンツ市場データベース2022 Vol.15【速報版】」(2022年2月)
[13] EUにおけるAVMSD(視聴覚メディアサービス指令)やDSM(デジタル単一市場戦略)を参照のこと。
[14] 今後施行されるDSA(デジタルサービス法)に基づいて適用される。
[15] 米国においては、サイバーセキュリティ強化のための大統領令(2021年5月)においてSBOMが連邦政府の取り組みとなり、同年7月、商務省NTIAがSBOMの最小要素を定めた“The Minimum Elements for a Software Bill of Materials”を策定・公表した。
[16] EU「デジタルサービス法(DSA)」においては、非常事態下においてソーシャルディア等に対して国が関与可能な「危機対応メカニズム」が盛り込まれているが、我が国においては、非常事態とは何かという議論に加え、表現の自由・報道の自由とのバランスなど慎重に議論する必要がある。
[17] 米国、日本、欧州などの旧西側諸国は、サイバー空間が民間投資によって構築されてきたことを踏まえれば、サイバー空間における民間の活動が可能な限り自由に行われる必要があり、政府の規制は最小限にとどめるべきであり、サイバー空間においても既存の国際法が適用されるとするのが妥当であると主張する。
これに対し、中国・ロシア等は、現在のサイバー空間は米国主導のルールに基づいており、サイバー空間は国家主権の名の下に国が管理することが必要であり、国際法の適用について、国連憲章のうち、国家主権、平和的紛争解決、内政不干渉等が重要(適用可能)だが、自衛権や国際人道法の適用は妥当性を欠くとしている。
[18] 検討アジェンダには、「サイバー空間における国際ルールの適用」(5-1)、「自由な越境データ流通」(5-2)、「広義のインターネットガバナンス」(5-3)の他、「ルールの国際的調和」(7-2)などが含まれ得る。
[19] 2015年5月、欧州委員会は「より良い自主・共同規制のための原則(The Principle for Better Self- and Co-regulation)」を推奨することを決定・公表した。この原則では、規制の形成(Conseption)段階と実施(Implementation)段階の2つのフェーズに分けて、それぞれ5項目(計10項目)の留意事項を整理している(https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/news/principles-better-self-and-co-regulation-endorsed-better-regulation-package#)
[20] DPFJは2021年9月設立し、同時に5つの検討アジェンダ((1)データ駆動社会におけるデジタル政策の基本的視点、(2)世界のボーダーレス化とデジタル政策のあり方、(3)デジタル市場の構造的変化がデジタル政策に与える影響、(4)データ駆動社会と知財・コンテンツ政策の方向性、(5)データ駆動社会におけるルールのあり方)を公表した。これを受け、設立記念パネル討論「デジタル敗戦国ニッポン。いま論ずべきデジタル政策とは」を開催した。
その後、上記検討アジェンダを踏まえつつ、各検討グループの検討状況を持ち寄った全体会合として「オープンカンファレンス:データ駆動社会におけるデジタル政策」を2022年1月および同年3月の2回開催した。
なお、詳細な情報はDPFJホームページ(https://www.digitalpolicyforum.jp) を参照されたい。
[21] DPFJ「ウクライナ侵攻とデジタル技術に関する教訓」(2022年3月)。この緊急提言を踏まえ、同年同月、緊急オープンカンファレンスを開催した。
<本件に関するお問い合わせ先>
デジタル政策フォーラム 事務局
菊池尚人、平田博子
Tel; 070-1183-0378
dpfj@yougolab.jp
https://www.digitalpolicyforum.jp/
【6/6 デジタル政策フォーラム&国際公共経済学会 共催カンファレンス 資料】
提言案のPDF版はこちら
カンファレンス資料のダウンロードはこちら
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