「ウクライナ侵攻とデジタル技術に関する教訓」緊急カンファレンス

2022年3月28日(月)18:00~19:00
オンライン(ZOOM/ウェビナー)

(登壇者)
江崎 浩(東京大学大学院情報理工学系研究科教授、WIDEプロジェクト代表)
國領二郎(慶應義塾大学総合政策学部教授)
砂原秀樹(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)
谷脇康彦(一般社団法人融合研究所顧問)
徳田英幸(国立研究開発法人情報通信研究機構理事長、慶應義塾大学名誉教授)
西田亮介(東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授)
林 秀弥(名古屋大学大学院法学研究科教授)
堀部政男(一橋大学名誉教授)
〈モデレーター〉
中村伊知哉(iU学長)
〈進行〉
菊池尚人(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科特任教授)

(発言要旨)
1)今回のシンポジウムの意図は、「戦争反対」でも「ロシア非難」でもない「デジタル政策としての内政外交を政・官・学・民として、どう捉え、なにをなすか。平時と戦時、レガシーは何か、どのように記録されるべきか、こうしたことを論じたい。
2)提言は3/16に公表。特定の方向を目指すのではなく論点を整理することが目的。今回は三つの視点で整理した。
3)各国のコネクティビティがどの程度集中しているかについて調べたところ、ロシアは分散された遮断しにくいスタイルになっていた。これは重要。また、ロシアドメインへの遮断要請については、ICANは拒否した。戦時でも「コネクティビティは維持」する方向となった。従来の「情報遮断」が、今回はロシアではうまくいっていない。また、インターネットガバナンスにおいてはグローバルな協調が今回しっかり行われている。
4)50年後に2022年を振り返った時に、主権国家や国民国家による秩序が①グローバルプラットフォームにおける偽情報、➁クリプトカレンシーに関するアナーキーな事象、③非西欧諸国の既存秩序への挑戦が特記されるのではないか。また、米国と西欧が強く結束したことも印象的。産業革命以来の国民国家、主権国家の寿命が来ているのではないか。
5)先週、インターネットガバナンスについて「FIRST」のコメントがあった。「FIRST(Forum of Incident Response and Security Teams)」はセキュリティ問題が発生したとき対応する世界組織。(国際的に情報交換やインシデント対応の連携を行うフォーラムで現在190のチームが参加)。「FIRST」はロシアとベラルーシのチームを「しばらく活動から排除する」決定をせざるを得なかった。他のメンバーを守るための例外的な措置。
6)サイバー攻撃の非対称性を根本的にどう変えるかが課題。ひとつの組織では防御できないので国内・国外の「連携」が重要。AIによるフェイクにはAIで対応できるセットが必要。
Cyber Physical Societyで悩ましいのは自律型ドローン兵器のような類。各国が参加する国際的基準づくりが重要。
7) フェイクニュースに対して日本は「民間の自主的規律で対応」としているが、「だれが対策をやるのか」というとやっている団体、組織が少なく、広く読み手に届けるというまでには至っていない。ロシアウクライナ問題では双方がフェイクと主張するので、信頼できて、蓋然性が高い団体を作る必要があるが担い手がいない。問題は誰がやるか。
8)サイバーでの争いは当事者が見えにくい。国なのかアノニマスのような団体なのか便乗しているどこかの人たちなのか、法律はなにが適用されるのか等々。非対称性があるのでサイバー攻撃では「抑止力」が機能しにくい現実がある。タリン・マニュアルのアップデートも必要。
9) このフォーラムに似た米国の組織に関わっているので紹介する。「CAIDP」はマイケル・ディカキス氏のプロジェクトとした始まった。https://www.caidp.org/3月1日に「ウクライナに対する不当かつ一方的な攻撃」へのステートメントを出している。それをここに張り付けている。日本からの参加は一名のみ。フェイクニュースに関しては、表現の自由における「明白且つ現在の危険(clear and present danger)」が古典的な原則。
10) )タリン・マニュアルはNATO/CCDCOEが出しているサイバー攻撃に関するマニュアル。サイバー空間に国際法が適用される場合の運用解釈を整理しており、これまでバージョン1.0と2.0が策定・公表されている。2020年12月にマニュアル3.0を策定するとの方針を公表しているので、最近の状況も踏まえた新しいマニュアルが策定されることになるだろう。
11)サイバーセキュリティに関する日本の防御として何が必要かというと、ナショナルCIRTに協力してくれる「体力と知力のある先生」が不足。ひとつにまとまった姿を再現したい。
12)ロシアでは残念ながら「放送が信頼」されている。SNS=若い人になると誰が情報を出しているかというコミュニティトラストが形成されている。誰がトラストアンカーになるかということが重要になってくると、トラストアンカーが何人いればいいかということや、そのためのテクノロジー、ガバナンスが重要になる。国に管理されたトラスタブルアンカーだけではないトラスタブルアンカーの存在を若い人のように認識することが重要であり、オルタナティブなトラストアンカーが必要。
13) 日本では、インシデントを隠すクセがある。関連する情報公開、共有のすそ野を広げる必要がある。セキュリティが何かを理解する必要がある。
14)争いでは古くから偽情報を流すことは常識だったが、以前との違いは「電波のスピード」や「世論の振れ幅の大きさ」であり、客観的に注視すべき。
15) )英語圏では偽情報量が多くなっていて、世論が分断されている。日本社会は日本語メディアへの依存度が高いが、日本語圏でも、ロシア大使館やロシアメディアの偽情報が流れるようになったのは今回の件の新しさだ。より身近な安全保障問題や憲法改正国民投票の際には他国の介入が大きな混乱を招くのではないかと懸念する。偽情報対策に平時からもっと取り組む必要がある。EUはナショナルセンターがあり、大学などにも2010年代前半に拠点が作られている。日本では各分野ごとに専門家が縦割りで別個に議論している。せめて一堂に会して対応するべき。
16)フェイクニュースへの対抗方法は平時から検討するべき課題だが、日本でもアメリカでもメディアへの信頼が低下している。「トラスト」こそが重要。
17)アカデミックが技術をどうやって活用するか、フェイクをどうやってなくすか、それらの役割は重要。
18)物理的に領空は侵犯していないけど情報は当然のように流通していて、これは宣戦布告と同義。戦争の定義の考え方を再考するべき時期。
19)「人間中心のAI利用」が定着していない。国際法(国際司法裁判所、国連など)を執行する手段がないことに法の無力さを痛感した。
20)今回は予測されていなかった戦争であり、議論しきれていない。平時からの議論の必要を痛感。本日はアカデミズム中心だが、ジャーナリズムなどから改めて振り返る機会を設けたい。