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この度、デジタル政策フォーラムでは、デジタルガバナンスのあり方を議論していくためのアジェンダについて、これらの状況を踏まえた新しいバージョンを策定ました。

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検討アジェンダ(2024年12月発表)

2025年3月6日Statement, ‘The need for international standardization on data spaces.

2025年3月6日「データスペース等に関する国際標準化の必要性」公表

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#27 トランプ大統領と独立規制機関
谷脇康彦(デジタル政策フォーラム代表幹事)

2025年3月18日

 本年1月の就任以来、矢継ぎ早に大統領令[1]を発しているトランプ大統領。就任1か月で80本を超えるという“大統領令ラッシュ”の中、2月18日、「すべての(政府)機関のアカウンタビリティの確保」[2]と題する大統領令が出された。

 この大統領令では、「米憲法第2条の規定により、すべての行政権(executive powers)は大統領にある」にもかかわらず、「歴代の政権は、いわゆる独立規制機関(independent regulatory authorities)について大統領権限を最小化してきた」と批判。具体的には、「独立規制機関は大統領に対する十分な説明責任を果たすことなく重大な行政権限を行使してきており、大統領のレビューを経ることなく重要な規制を公布することを認められてきた」のであり、「こうした活動は米国民に対する説明責任をないがしろにしており、統一的で筋の通った連邦法の執行を妨げている」と批判した。

 その上で、今回の大統領令は連邦政府組織であるOMB(Office of Management and Budget : 行政管理予算局)長官が独立規制機関の長(委員長)のパフォーマンスや効率性に関する基準を設け、大統領の政策や優先順位に適合しているかどうかを評価した上で大統領に定期的に報告することを命令している。

 一般に独立規制委員会は、連邦議会上院の助言・同意を得て、大統領が任命する委員(Commissioner)で構成され、大統領はそのうち1名を委員長(Chairman)に指名する。今回の大統領令は、大統領の進める政策の方向性や優先順位に反する政策を採ろうとする独立規制機関の委員長は大統領が解任することを示唆している。そして、この大統領令とともに公表されたファクトシート[3]では、独立規制機関の例示として、FTC(Fair Trade Commission : 連邦取引委員会)やSEC(Securities and Exchange Commission : 証券取引委員会)と並んで、FCC(Federal Communications Commission : 連邦通信委員会)も挙げられている。これら3つの機関に言及しているのは、大統領が特に関心を有している独立規制機関だということだろう。

 米国FCCは通信放送分野の独立規制機関として1934年に設立された。委員は5名、委員長は与党から選ばれるのが通例。所掌は周波数管理(連邦政府用周波数を除く)、無線局の免許付与、州際・国際通信事業者に対する規制等をカバーしている。

 そして、トランプ大統領がFCCを特に問題視している背景にはトランプ政権の第一期(2017-21年)における通信品位法を巡る議論が影響を及ぼしていると考えられる。当時、SNS事業者はトランプ大統領やその支持グループの過激な書き込みに対し、記事の削除やアカウントの凍結などを行なった。その背景には、通信品位法第230条の規定により、SNS事業者は第三者が発信する情報について原則として責任を負わず、有害なコンテンツに対する削除等の対応(アクセスを制限するための誠実かつ任意に行なった措置)については責任を問われないという制度がある。

 この制度に対し、トランプ大統領はSNS事業者による記事の削除等は検閲行為に該当するものであり、ユーザー投稿を削除する際にはSNS事業者等による説明責任が果たされることや政治的発言の検閲を通信品位法に定める免責対象から除外することを求め、2020年5月、これらを内容とする大統領令「プラットフォーマーによるオンラインの検閲の防止に関する大統領令」[4]に署名した[5]。

 この大統領令では上記の内容の検討をFCCに求めるよう、政府組織である商務省NTIA(国家電気通信情報庁)に指示した。これは当時の政権の判断として、大統領が独立規制機関であるFCCに対して直接命令することができないため、商務省NTIA経由としたものだろう。これを受け、FCCは同年10月に免責制限の見直しについて規則制定の手続きを開始することを発表したものの、トランプ氏の大統領選敗北を受け、翌2021年1月、規則制定は行わないと表明した。トランプ陣営にしてみれば、独立規制機関に対する検討支持が迂遠であり、かつ大統領の意向に沿った方向で検討が進まないという不満があり、それが今回の大統領令につながっている。

 独立規制委員会としてのFCCは政治的中立性を可能な限り確保するという目的を持っており、委員の選任においても大統領の専権事項ではなく連邦議会上院の助言・承認が求められる。他方、時の与党が5名中3名の委員ポストを獲得することが慣例となり、かつ委員長ポストもその3名の中から選ばれるなど政治的色彩が濃い面も否めない。

 独立規制委員会は何から独立しているのか-----政治(議会)か、それとも行政(大統領)か。今般の大統領令による独立規制委員会のあり方変更の試みはかなり乱暴な印象を与えつつも、司法・立法・行政の三権分立という基本的な枠組みの中での独立規制委員会のもつ意味や合理性を問うものとなっている。


[1] 合衆国憲法は「すべての行政権は大統領にある」(第2条)と規定しており、この規定に基づき、大統領は連邦政府や軍に対して行政命令(大統領令)を出すことができる。この大統領令は、議会の承認を得なくても即座に法的拘束力を持ち、他方、議会が命令発効を禁じる法律を制定したり、連邦最高裁が違憲判断を下したりすれば効力を失う。

[2] “Presidential Actions Ensuring Accountability for All Agencies”(February 18, 2025)https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/02/ensuring-accountability-for-all-agencies/

[3] https://www.whitehouse.gov/fact-sheets/2025/02/fact-sheet-president-donald-j-trump-reins-in-independent-agencies-to-restore-a-government-that-answers-to-the-american-people/

[4] https://trumpwhitehouse.archives.gov/presidential-actions/executive-order-preventing-online-censorship/

[5] 本件を巡る具体的な経緯は、例えば三菱総合研究所「インターネット上の違法・有害情報を巡る米国の動向」(2021年3月、総務省プラットフォームサービスに関する研究会第24回会合資料)などを参照。https://www.soumu.go.jp/main_content/000739937.pdf